アナログの投稿用サイズで描いたものを同人サイズの機械でスキャンしたのでちょっと暗かったりしますのであしからず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い頃、夜の闇がまだ怖かった頃。月夜の綺麗な真夜中に、真っ赤な宝石のような目をした背丈の大きい男が私の部屋を訪れた。音もなく、風も起こさず。気配という概念を知らないかのように、壁や空間、私を囲むあらゆるものの存在を無視するように、気がつけば枕元で私を見下ろしていたの。

人の魂を喰らう悪魔が、夜中に訪れて命を攫っていくという話は聞いていた。でも、あの人はとてもそんな風には見えなかったし、特に危険とも感じなかった幼い頃の私は、人形を手にもって「私と遊んで」ってねだったの。中々勇気のある子どもでしょう?まあ、恐れを知らない馬鹿って言われるかもしれないけれど。…そうしたらね、一緒に遊んでくれたのよ、あの人。子どもは乱暴で加減を知らないから、ちょっと手荒なことをしてしまったけれど。それでも怒ったりせず、眠くなるまで遊んでくれた。疲れてベッドに入った後、何か言いながら頭を撫でてくれたのを、なんとなく覚えているの。悪魔の手は冷たくて氷のようだと思っていたけれど、あれは迷信ね。まあ、温かいってほどではないけれど、優しいぬくもりを感じたわ。

どうして悪魔ってあんなに嫌われ者なのかしらね。天使が墜ちて成り果てた悪魔と、人間が墜ちて成った悪魔と、2通り在るらしいけれど…必ずしも、自身の悪行が原因でっていう訳では無いんじゃないかしら…。一体何があったのか彼に訊いてみたいけれど、今となっては叶わないわね。

そういうわけでね、両親や神父様からさんざん悪魔に気をつけろって言い聞かされてきたけれど、幼い私と遊んでくれたあの悪魔を想うと、どうにも嫌いになれそうにないわ。

<19世紀末 イギリスのとある商家の娘の手紙より>